

(2025年7月20日日本経済新聞)
今年6月の参議院選挙では、多くの野党から「消費税を減税しよう」とか「社会保険料を減らそう」などの公約がかかげられました。
中には、「消費税を廃止しよう」という政党まで現れました。
どうして日本人は税金が嫌いなのでしょうか?
そもそも「税金は国民を搾取するもの」と考える人が日本には多いからでしょうか?
聞くところによると、スウェーデン国民は付加価値税(消費税)の減税には反対する人が多いそうです。なぜなら、付加価値税(消費税)の減税により、社会保障政策が後退することを恐れるからだそうです。
これから本格的な超高齢化社会を迎える日本で、減税とか社会保険料を減らすことはできるのでしょうか?
消費税を減税したり、社会保険料を減らすと、社会保障にかかるお金が減っていきます。
その減った分は、国が借金をして補うことになります。つまり赤字国債を増やすことになります。
1300兆円を超える借金をかかえる日本において減税などしたらさらに借金は増えてしまいます。その借金の返済は将来世代(若い人)が行うことになります。
年金や医療、介護などの社会保険の財源は消費税や社会保険料でまかなっているということは誰でも承知しているとは思いますが、消費税とか社会保険料を減らしてしまったら、社会保障政策は立ち行かなくなります。
若い人たちは、「私たちは年金をもらえないと思っています」と心配しています。
「たぶん年をとって医療や介護が必要になっても、社会保険では十分な保障はしてくれない」と思っている人も多いかもしれません。
消費税や社会保険料を減らしてしまったら、ほんとうに年金をもらえなくなることになりますし、医療や介護を十分に受けられなくなってしまいます。
今の日本で深刻な問題になっているのは、国民と政府の信頼関係がまったくないことです。
そうしたら、いっそのこと、社会保険などやめてしまって、自己責任で、民間の個人年金に加入するとか、民間の医療保険に加入するとか、民間の介護保険に加入するとか、などの方法が考えられます。
しかし、民間の保険だと、当然のことながら、税金が投入されないので、社会保険より高額の保険料がかかりますし、倒産の恐れもあります。
減税とか社会保険料の減額を訴える政党は、社会保障体制はどうなってもいいとは思っていないと思います。
とすると、社会保障制度はなくせないので、社会保障給付費を減らすことで、税金や社会保険料を減額することが考えられます。例えば、高齢者の年金額を減らすとか、高齢者の医療費負担を引き上げるとか(1割負担を3割負担に上げるなど)、高齢者の介護の負担割合を引き上げるとか(所得に関係なく一律3割負担に上げるなど)などが考えられます。
しかし、高齢者の負担を重くする政策を公約にかかげれば、高齢者からの票は得られません。
そもそも年金だけが頼りの高齢者の生活が立ち行かなくなります。
そうすると、「減税分や社会保険料の減少分は、国債でまかなえばいいじゃないか」といことになります。
世界一借金が多い国の日本でまた借金が増えることは、将来世代に大きな負担をかけることになります。国債は国の借金です。「国の借金だから国民には関係ない」と言う人もいます。
これが本当なら、国民から税金など取らずにすべて国が借金して、社会保険制度を支えればいいということになります。消費税も所得税も、国民が負担することはありません。もらった給料はすべて消費すればよいことになります。教育も医療も年金も介護もみんな国の借金でまかなえばよいことになります。
スウェーデンのように付加価値税(消費税)25%で、医療も教育も老後保障もみな安心などと言わす、国の借金ですべて賄えばよいのです。しかし、そうできないことは誰でも理解できます。
では、どうすればいいか?
消費税を引き下げるとか、消費税をなくすと主張する政党は、おそらく「大企業や富裕層からたくさん税金をとればいいじゃないか」と考えているのではないかと思います。
例えば、法人税率を上げるとか、相続税率を上げるとか、です。
それもひとつの案と思います。
そのような政党も、消費税を引き下げるために、また社会保険料を引き下げるために、大企業や富裕層向けの税金を増税しよう」という主張をすればよいと思います。
しかし、選挙でせっかくたくさんの票を得た政党は、そのようなことは言いづらいですね。