老後資金1億円もあるのに?

2023年6月20日

会社に40年近く勤めていて、定年近くなったころ、資産が1億円を超える人はたくさんいます。
相談に見えたAさん(59歳)は、
・住宅ローンの返済も終わっているし、
・子どもがいないので、教育費もかからないし、
・両親はすでに他界しているので、介護費用もかからないし、
という環境にあり、大きな出費の予定はありません。
にもかかわらず、定年を間近にして預貯金は1億円もあります。
このように将来に向けて心配がなさそうなAさんが相談に見えましたが、ご相談内容はいったいどんなことでしょう?
Aさんに聞いてみました。「きょうのご相談は、どんなことでしょうか?」と。
Aさんは、「どのように資産運用すればいいか教えてもらいたいのです」とお答えになりました。
Aさんは、資産のすべてを7つの銀行に預けています。
「銀行に預けていたのではあまり増えないので、増やす方法を知りたい」とのこと。
Aさんは、独身です。
1億円の資産のあるAさんは、老後の生活費が不足することもないし、家族に財産を遺す必要もありません。したがって、資産運用してお金を増やす必要性がないのです。
独身なので、介護が必要になったときに、老人ホームに入居できるお金が残っていれば安心という程度です。
ここでAさんが100歳まで生きることを前提にして、いくらの老後資金があれば足りるか、計算してみます。
まずは支出です。仮に生活費が、月25万円、年間300万円かかると仮定し、60歳以後40年間生きるとすると、1億2,000万円の生活費がかかります。これが、100歳まで生きることを前提にした老後生活費です。
これに対し、60歳以後どのくらいの収入があるかを計算してみます。
65歳からもらえる公的年金は、年200万円ですから、100歳までの35年間で合計7,000万円です。
60歳から65歳まで再雇用で働くと年収300万円。5年間で1,500万円の収入です。
60歳で退職金を2,500万円もらえます。
すると、60歳以後の収入の合計額は、公的年金7,000万円+勤労収入1,500万円+退職金2,500万円=1億1,000万円になります。
60歳以後の支出(生活費)が、1億2,000万円で、収入が1億1,000万円であれば、不足額は1,000万円です。
しかし、資産は1億円あるので、100歳で残る金額は9,000万円になります。
資産はほかにも、自宅の土地3,000万円(相続税評価額)があります。
Aさんが亡くなった場合、1億2,000万円の資産、つまり遺産にどのくらいの相続税がかかるのでしょうか?
Aさんが亡くなったときの法定相続人は、弟さん1人です。法定相続人1人の場合、相続税の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数(1人)=3,600万円。
課税遺産総額は、1億2,000万円―3,600万円=8,400万円。
そうすると相続税は、8,400万円×30%-700万円=1,820万円になります。
たくさんの財産を築いた末に、1,820万円もの相続税がかかります。
何のために一生懸命働いてきたのか、わからなくなってしまいます。

私からAさんへの最初のアドバイスは、「一生懸命お金を使って相続税がかからない程度に財産を減らしてしてください」ということです。
相続税がかからない程度の財産ということは、Aさんの場合、相続税の基礎控除3,600万円です。
ですから、Aさんは、資産運用でお金を増やすことより、相続税がかからないようにお金を一生懸命使うことを考えなければならないのです。
ちょっと変な話ですね。
世の中には、老後資金が足りないと言って不安に思っている人が多いのに、Aさんのようにお金が余ってしまうので、使わないとまずいという人もいるのです。
Aさんには趣味がありません。ゴルフや海外旅行が好きであれば、お金を使うこともできますが、Aさんにはお金の使い道がありません。

そこで、2番目のアドバイスは、「甥っ子の教育費の援助名目でお金を贈与してください」ということです。
弟さんは、3人のお子さんがいて、そのうち2人は私立大学在学中です。1人は大学院生。もう1人は学部生ですが、将来は大学院に進学したいと言っています。
贈与税の基礎控除以内の贈与であれば、つまり年間110万円以内の贈与であれば、贈与税がかからないので、安心して贈与ができます。これらにより、相続財産を減らすことができ、相続税の負担も軽くなりますし、おまけに弟さん家族からも喜ばれることになります。

そして、3番目のアドバイスは、「財産をすべて銀行に預けておくのは、インフレになったときや有事のときは危険です。投資の3原則である『分散投資』『長期投資』『つみたて投資』を実践してください」ということです。
つみたてNISAの仕組みを利用して、毎月3万円(2024年からの新NISAでは毎月10万円)、投資信託などで積み立てるのです。あるいは、株主優待や配当金を目的に株式投資を楽しむのもよいと思います。あるいは、有事に備えて純金積み立てなどもよいと思います。
銀行預金だけではなく、資産をいくぶん分散してみるとよいと思います。
Aさんには、このようにアドバイスさせてもらいました。
まじめに一生懸命働いてこられたAさんには、何よりもっと人生を楽しむためのライフプランを作ってほしいと思っています。